[債務整理] 退職金請求事件

調査
原告
紹介

主文

1被告は,原告に対し,1079万7873円及びこれに対する平成12年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,1488万9782円及びこれに対する平成12年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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第2事案の概要

本件は,被告の元従業員であり平成12年3月20日付けで被告を退職した原告が,被告に対し,退職金請求権に基づき,退職金として378万4000円の支払を求めるとともに,不当利得,債務不履行又は不法行為に基づき,被告従業員持株会の退会に伴う原告の持株の精算金相当額から既払額を控除した1110万5782円の支払を求めた事案である。
1前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない)
(1)当事者
ア原告は,平成12年3月20日まで被告の従業員であったが,同日付けで,被告を依願退職した。
イ被告は,建築材料の卸販売並びにタイル工事の設計及び請負等を目的とする株式会社である。
(2)退職金について
ア被告が平成9年3月21日付けで改訂を行い,平成10年5月19日付けで労働基準監督署に届け出た就業規則の第4章の退職金規定(抄)及びその別表は,次のとおりである(甲1,2,乙34の1ないし3)。
第2条従業員が退職したときは,この規定の定めるところにより,退職金を支給する。(以下略)
第3条又,退職金の額は別に定める。
次の区分に従い別表の勤続年数に応じた支給率を乗じて得た金額を退職金支給額とする。
(1)A率適用
1在職中死亡した場合
2定年退職の場合
3会社の都合による退職の場合
(2)B率適用
1自己の都合による退職の場合
2休職期間の満了による退職の場合
第5条勤続年数の計算は,入社の日より退職又は死亡の日までとし,1年未満の端数は切り捨てる。
(別表)
勤続年数A率B率
32年454万円A率の80%
33年473万円A率の80%
イ被告は,平成11年4月1日付けで,就業規則の改訂(以下「本件改訂」という。)を行い,その第4章の退職金規定に,上記アの規定に加え,次の条文を新たに追加した(甲1,乙1)。
第8条周囲の情勢及び会社の経営状態に著しい変化が生じた時は別途取締役会において個別決定するものとする。
ウ被告の取締役会は,平成12年7月7日,被告において同年決算期(47期)に無配となる等,極めて厳しい経済状況にあることを理由に,上記イの退職金規定第8条に基づき,原告他1名について退職金を支給しない旨の決定をした(乙2)。
(3)株式の精算について
ア原告は,昭和49年以降,被告の株式を1株当たり50円で取得し,平成6年9月にDORAL従業員持株会(以下「持株会」という。)が設立された後はその会員となり,退職時までに,被告の株式2万6442.337株を所有するに至った。
イ原告が退職に伴って持株会を退会したところ,被告は,平成12年3月27日付けで,被告の株式の価格を1株当たり152円として計算し,原告所有に係る被告の株式を合計401万9235円で精算し,原告に送金した。
ウ持株会規約には,持株会の退会精算について,次のような規定がある(甲3,乙12)。
第20条1退会者は,退会の届出を行った日における持分残高に相当する株式の払戻しを受ける。
ただし,単位株未満の持分残高については,これを時価で売却し,その代金から委託手数料(消費税相当額を含む。)及び有価証券取引税を差し引いた金額を払い戻す。
付則第7条株式公開までは,規約第20条にかかわらず,退会者に属する持株の全株式は,原則として,退会時に本会に譲渡する。
譲渡するこの株式は,理事会一任価格で換算し,退会者に現
金で返還する。
エ被告の株式は,公開されていない。
2争点
(1)退職金請求権の有無及び金額
(原告の主張)
原告の勤続年数は,昭和42年3月21日から平成12年3月20日までの33年である(ただし,昭和48年1月ころから同年7月ころまでは,休職しており,上記期間を勤続年数から差し引くことに異議はない。)ところ,被告が平成10年5月19日付けで労働基準監督署に変更を届け出た就業規則の退職金規定の別表によれば,勤続年数が33年で自己都合退職した原告の退職金の額は,378万4000円である。
よって,原告は,被告に対し,退職金請求権に基づき,378万4000円の支払を求める。
これに対し,被告は,本件改訂に係る就業規則の退職金規定第8条に基づき,取締役会において,業績不振を理由に,原告に退職金を支給しない旨の決定をしたと主張する。
しかし,本件改訂は,就業規則の一方的不利益変更に当たる上,被告において,労働基準監督署に対する届出を怠り,労働基準法所定の労働組合ないし労働者からの意見聴取を行っていないから,無効である。
また,取締役会において退職金不支給決定が行われた事実はないし,仮に退職金不支給決定が行われたとしても,かかる決定は,退職金の趣旨及び強行法規たる労働基準法に反し,無効である。
さらに,被告は,同一決算期内である平成11年10月に退職した従業員(勤続年数35年)及び次期決算期である平成12年4月1日(原告の退職日の12日後)に退職した従業員(勤続年数10年)に対し,退職金としてそれぞれ280万円,25万2000円を支給しているにもかかわらず,原告には退職金を支給しないという恣意的運用を行っており,このような恣意的運用を許容する上記退職金規定第8条は,無効である。
(被告の主張)
本件改訂に係る就業規則の退職金規定第8条によれば,退職金の支給は取締役会の決定による旨規定されている。
被告は,改訂後の就業規則を社員に対して配布しているから,本件改訂は有効である。
そして,被告の取締役会は,平成12年7月7日,被告の業績が悪化し,同年決算期に設立以来初めて無配に転落したこと,同時期に数名の退職者が出たことを理由として,上記退職金規定第8条に基づき,原告に退職金を支給しない旨の決定をした。
したがって,原告は,退職金請求権を有しない。
なお,原告は,昭和42年4月1日に入社したが,昭和48年1月7日に懲戒解雇され,同年7月21日に再入社しているから,その勤続年数は,27年にすぎない。
(2)株式の精算に係る債務は,被告に帰属しているか
(原告の主張)
持株会は,被告の総務部内に存在することになっており,入退会の受付業務のみを行っているにすぎず,その最終決裁権者が実質的には被告代表者であるなど,その意思決定方法が不明朗であり,また,独立した会計事務を行っていない。
したがって,持株会は,被告の組織の一部にすぎず,被告と別個独立の団体性を有するとは解されない。
よって,株式の精算に係る債務は,被告に帰属している。
(被告の主張)
持株会は,平成6年9月22日,被告の従業員であるA他3名が発起人となって設立総会を開催し,Aを理事長に選任して発足したものであり,持株会規約において,民法上の組合であることが明記されている。
また,入会についても,持株会規約において,理事長宛に申し込むことになっている。
したがって,持株会は,被告から独立した団体である。
よって,株式の精算に係る債務は,持株会ないしその構成員に帰属するものであって,被告には帰属していない。
(3)退会精算における株式の評価額
(原告の主張)
持株会規約第20条は,退会精算について時価で精算する旨規定しているところ,被告の株式の時価は,B会計士が平成10年10月23日の時点で収益還元方式と配当還元方式を併用して算定したとおり,1株当たり572円と評価するのが相当である。
そうすると,原告所有に係る被告の株式の価格の合計は,上記572円に株式数2万6442.337を乗じた1512万5017円であり,これから既払の精算金401万9235円を控除した1110万5782円が,被告の得た利得金ないし原告の被った損害金となる。
よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権又は債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償請求権として,1110万5782円の支払を求める。
これに対し,被告は,C会計士による株価の算定に基づいて被告の株式の価格を1株当たり152円と評価したことは相当である旨主張するが,上記算定において用いられている類似会社比準方式は,類似会社を選択することが困難であるという難点がある上,上記算定において類似会社として選択された株式会社Hは,被告と規模等において異なっており,被告の類似会社として適切な会社とはいえない。
また,被告は,持株会規約付則第7条に基づく理事会一任価格に原告が拘束される旨主張する。
しかし,上記理事会一任価格が,合理的な理由がないにもかかわらず乱高下し,平成11年10月に退職した従業員に対しては,1株当たり約550円として計算して持株を精算しているにもかかわらず,原告には1株当たり152円として計算するという恣意的運用が行われており,このような恣意的運用は,到底許されるものではない。
(被告の主張)
持株会規約付則第7条によれば,株式上場まで,株式の価格の決定は理事会に一任されているから,理事会が決定した株式の価格は,原告に対して拘束力を有する。
そして,理事会は,株式の価格について,平成9年4月28日に1株当たり550円,平成12年1月30日に1株当たり152円,同年7月8日に1株当たり43円とそれぞれ決定した。
したがって,原告は,1株当たり152円という価格に拘束される。
被告が,C会計士による類似会社比準方式を用いた株価の算定に基づいて株式の価格を1株当たり152円と評価したことは,相当性を有しており,類似会社として選択された株式会社Hは,株式会社INAXの特約店という共通点を持ち,会社,規模,成長性等において被告と類似性が高いから,類似会社の選択として妥当である。
また,破産者道銀ファイナンス株式会社(以下「道銀ファイナンス」という。)所有に係る被告の株式を平成12年7月に有限会社Iに売却する際の評価額は,1株当たり43円にすぎなかった。

第3争点に対する判断

1争点(1)(退職金請求権の有無及び金額)について
(1)就業規則の改訂の効力について
ア原告は,被告が平成9年3月21日付けで改訂を行い,平成10年5月19日付けで労働基準監督署に変更を届け出た就業規則の退職金規定及びその別表に基づき,退職金請求権があると主張するのに対し,被告は,本件改訂に係る就業規則の退職金規定第8条に基づいて取締役会による退職金不支給決定がされたことを根拠に,退職金請求権はないと主張する。
そこで,本件改訂に係る就業規則の退職金規定の効力の有無が問題となる。
イ前記前提となる事実によれば,被告は,本件改訂により,退職金規定第8条として,周囲の情勢及び会社の経営状態に著しい変化が生じたときは,退職金を支給するか否か及び支給額につき,別途取締役会において個別決定する旨の規定を追加している。
そして,上記第8条は,従前の退職金規定によれば勤続年数と支給率に応じて一定額に定められていた退職金の金額を,取締役会の個別決定により減額し,場合によっては不支給とする余地を生むものであるから,被告が本件改訂により上記第8条を追加したことは,就業規則の不利益変更に該当するというべきである。
ウところで,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである(最高裁判所昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁参照)。
そして,上記合理性の有無は,使用者側の就業規則変更の必要性の内容・程度,就業規則の変更により労働者が被る不利益の程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯等を総合考慮して判断すべきである(最高裁判所平成9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁参照)。
そこで,以下具体的に検討する。
エ前記前提となる事実及び後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被告の平成7年決算期(第42期,平成6年3月21日から平成7年3月20日まで)の営業収益は50億5253万6000円,営業利益は1億4167万2000円,経常利益は1億6457万2000円,税引後当期純利益は8696万2000円であり,平成8年決算期(第43期,平成7年3月21日から平成8年3月20日まで)の営業収益は52億1211万1000円,営業利益は1億7539万8000円,経常利益は2億2609万2000円,税引後当期純利益は1億1216万6000円であり,平成9年決算期(第44期,平成8年3月21日から平成9年3月20日まで)の営業収益は57億6606万円,営業利益は2億0050万3000円,経常利益は1億9738万6000円,税引後当期純利益は1億0344万2000円であり,平成10年決算期(第45期,平成9年3月21日から平成10年3月20日まで)の営業収益は60億9359万4000円,営業利益は1億3992万6000円,経常利益は1億9918万9000円,税引後当期純利益は4291万2000円であり,平成11年決算期(第46期,平成10年3月21日から平成11年3月20日まで)の営業収益は48億1464万4457円,営業利益は4004万8321円,経常利益は8009万8092円,税引後当期純利益は4459万5748円であり,平成12年決算期(第47期,平成11年3月21日から平成12年3月20日まで)の営業収益は44億9422万6000円,営業利益は388万7000円,経常利益は2015万円,税引後当期純利益は141万9000円である(甲9,乙9,25)。
(イ)被告は,国内及び道内の景気回復の見込みが立たず,被告においても売上高及び利益が減少し,経営状況が悪化したことを理由に,平成11年4月1日付けで,本件改訂を行い,上記退職金規定第8条を新たに追加した(乙25,証人D)。
しかし,被告は,本件改訂について,平成13年1月に至るまで労働基準監督署に届け出なかった(乙36,証人D)。
(ウ)被告は,平成11年10月に退職した従業員Eに対し,退職慰労金として280万円を支給した(甲11)。
被告の取締役会は,平成12年7月7日,被告において同年決算期に無配となる等,極めて厳しい経済状況にあることを理由に,退職金規定第8条に基づき,原告他1名について退職金を支給しない旨の決定をした(前提となる事実)。
被告は,平成12年4月に退職した従業員F(勤続年数10年)に対し,退職金として25万2000円を支給するなど,同月以降に退職した従業員全員に対し,退職金を支給した(甲13,証人D)。
オ以上の認定事実を前提に,本件改訂の理由となった経営状況の悪化についてみるに,被告の営業収益は,平成7年決算期以後増加し,平成10年決算期には約60億円に達したが,平成11年決算期には,約48億円に減少した。
営業利益については,平成10年決算期までは,約1億4000万円を確保していたものが,平成11年決算期には約4000万円に激減し,経常利益についても,平成8年決算期以降約2億円あったものが,平成11年決算期には約8000万円に半減した。
また,税引後当期純利益についても,平成10年決算期に,前期まで約1億円あったものが,約4291万円に半減し,平成11年決算期には,微増したものの,ほぼ同水準にとどまった。
そうすると,平成11年決算期には,相当程度の収益の悪化があったというべきである。
しかし,本件全証拠によっても,被告の取締役会が,本件改訂に当たって,向後の退職者数及び退職金支給額の見込みや,収益の改善のために他にどのような対策があり,退職金支給額の圧縮が避けられないものか否かについて,具体的にどのような検討をしたのか明らかではなく,したがって,退職金支給額の圧縮が収益の改善のために必要不可欠の措置といえると証拠上認めることはできない。
また,本件改訂により,従業員が被った不利益の程度についてみるに,1本件改訂に係る退職金規定の変更により,取締役会が個別決定をすれば,従前の退職金規定によれば勤続年数と支給率に応じて一定額に定められていた退職金の金額を減額し,場合によっては不支給とすることが可能となること,2現実に,変更後の退職金規定に基づき,原告他1名について退職金を支給しない旨の決定がされていること,3変更後の退職金規定を現実に適用した結果,原告と同一決算期に退職した従業員及び原告の退職した月の翌月以降に退職した従業員に対しては一定の退職金が支給されたにもかかわらず,原告他1名に対しては退職金が支給されないという,恣意的ともいうべき従業員間の不平等を招来する結果となっていることに照らせば,本件改訂に係る退職金規定の変更により,従業員が被った不利益は甚大であるというべきであるばかりか,安定した労使関係を確保するという見地からみても,合理性ないし社会的妥当性に疑問がある。
加えて,被告において,本件改訂に当たり,従業員が被る上記不利益に対する代償措置やこれを緩和する措置を設けたり,関連する他の労働条件を改善したことを認めるに足りる証拠はない。
さらに,被告において,本件改訂に当たり,従業員の過半数で組織する労働組合又は従業員の過半数を代表する者の意見を聴取したと認めるに足りる証拠はないから,本件改訂は,その変更手続それ自体の正当性にも疑義があるといわざるを得ない(労働基準法90条参照)。
カ以上によれば,本件改訂は,これによる不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとはいい難く,これに同意しない原告に対してその効力を認めることはできず,したがって,本件改訂に係る退職金規定第8条に基づく,原告に退職金を支給しない旨の被告取締役会の決定もまた無効である(なお,本件改訂に係る退職金規定第8条につき,取締役会決議に当たり,退職金の不支給を合理化するに足りる条件を付加する場合にはこれを有効と取り扱う余地があると解してみても,そのような付加条件も認められない本件においては,この条項を適用し,退職金を不支給とする決議をもって原告の請求を拒むことは許されない。)。
(2)原告に支給すべき退職金の額について
ア原告の勤続年数について
原告は,その勤続期間について,昭和42年3月21日から平成12年3月20日までであるが,昭和48年1月ころから同年7月ころまでは休職していたので,その期間を勤続年数から差し引くことに異議がないと主張するのに対し,被告は,原告の勤続期間について,昭和42年4月1日に入社したものの,昭和48年1月7日に懲戒解雇され,同年7月21日に再入社したと主張する。
そこで,原告が昭和48年1月7日に懲戒解雇された後に再入社したのか否かについて検討する。
この点,乙36(被告総務部長であるDの陳述書)中には,原告が長期職場放棄により懲戒解雇された旨の被告の主張に沿う部分があるが,懲戒解雇の事実を裏付ける客観的証拠がないばかりか,上記Dは,証人尋問において,原告が6か月程度職場を放棄し,これは懲戒事由に当たったけれども,処分をしないでいたところ,原告から職場復帰の要請があったため,やむなく職場復帰を認めたという趣旨の証言をしていること,昭和48年1月に懲戒解雇された者が同年7月に再入社した旨の被告の主張はそれ自体としていささか不自然であることに照らすと,被告の主張に沿う前記証拠だけでは,原告が昭和48年1月7日に懲戒解雇されその後に再入社した旨の被告の主張は採用できない。
そうすると,原告の勤続年数から上記休職期間を控除し,前記退職金規定第5条に基づいて1年未満の端数を切り捨てると,退職金支給の基準とすべき原告の勤続年数は32年であると認められる(なお,当初の入社時が昭和42年3月21日か同年4月1日かについて食い違いがあるが,勤続年数について1年未満の端数を切り捨てると,いずれにしても同じ結果となる。)。
イ本件改訂に基づく取締役会決議が効力を有しないことは前記のとおりであるから,原告に支給すべき退職金の額は,本件改訂前の就業規則である平成9年3月21日付け改訂後の就業規則の退職金規定及びその別表に基づいて算定されるべきであるところ,前記前提となる事実によれば,勤続年数が32年で自己都合退職した原告の退職金額は,前記別表における勤続年数が32年の場合のA率(454万円)の80パーセントである363万2000円であると認められる。
(3)よって,争点(2)(退職金請求権の有無及び金額)についての原告の主張は,363万2000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2争点(2)(株式の精算に係る債務は,被告に帰属しているか)について(1)後掲各証拠によれば,持株会について以下の事実が認められる。
ア持株会の設立
持株会は,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)の指導の下に,その書式を用いて規約等を定め,被告の主導の下で,平成6年9月に設立され,当時被告の総務部の課長であったAが理事長に就任した。
その設立及び運営状況は以下のとおりである(乙3,10)。
(ア)持株会規約の作成
持株会規約には,持株会を民法上の組合とし,会の目的を被告の従業員が出資金をもって被告の株式を取得し,もって各従業員の財産形成の一助とすることと定めて入会資格を被告の従業員に限定し,持株会の所在地を被告内とする旨規定するほか,入会方法,会員による拠出金,会社からの奨励金,退会精算,役員(理事,監事)の選任,理事会の決定事項,監事の権限等についての規定がある(甲3)。
(イ)発起人会兼設立総会の開催
平成6年9月22日の発起人会兼設立総会において,理事長,理事及び監事の選任等を行った(乙14)。
(ウ)覚書及び協定の締結
持株会と被告との間で,奨励金の付与等について取り決めた覚書及び拠出金の給与控除に関する協定を締結した(乙16,17)。
(エ)事務委託契約の締結
持株会と野村證券との間で,事務代行,株式買付け,株券保管等の委託に関する契約を締結した(乙11)。
(オ)持株会名義の預金口座の開設
持株会は,持株会名義の預金口座を開設し,会員からの拠出金及び会社からの奨励金を同口座に入金した後,同口座から野村證券に送金し,退会者の精算金については,野村證券から同口座に入金するようにした(乙23,24,証人A)。
(カ)会員の募集
持株会は,会員を募集し,入会者からの持株会理事長宛の入会届出書を受け取り,入会連絡票を野村證券に送付した(乙4の1ないし4,7)。
イ持株会の運営
(ア)野村證券は,持株会の口座から送金された拠出金及び奨励金を,中期国債ファンド等に投資して運用を行い,会員別持分明細簿を持株会宛に送付する(乙10,24,証人A)。
(イ)持株会において,会員全員が集まって意思決定をする会員総会は開催されておらず,個々の会員の意見は,個人的に理事に伝えられるのみである。
また,持株会全体の収入及び支出等の財務状況が,各会員に報告される機会はない(以上につき,証人A)。
(ウ)持株会の電話番号は,持株会独自の番号ではなく,会社の番号である(証人A)。
(エ)退会手続等
持株会退会者が提出する持株会退会届出書には,その宛先として被告代表者である「取締役社長G(従業員持株会)」との記載があり,下欄には,持株会の欄と共に被告代表者及び担当部長と思われる「社長」及び「部長」の決裁印欄が設けられている(甲17)。
持株会は,野村證券から送付された退会精算書を,持株会理事長名義で退会者に送付する(甲5,乙10)。
なお,被告は,Eが退職する際,同人に対し,退職慰労金及び持株会退会精算金を支払う旨の通知書を被告名義で送付した(甲11)。
ウ理事会の意思決定
理事会は,平成9年4月28日付け,平成12年1月30日付け及び同年7月8日付けで,退会の際に持株会が払い戻す精算金の金額を決定する等の決議を行った(乙18,20,21,証人A)。
(2)原告は,持株会は,被告の組織の一部にすぎず,被告と別個独立の団体ではないから,株式の精算に係る債務は,持株会ではなく被告に帰属する旨主張するので,以下,持株会が被告と別個独立の団体であるか否かについて検討する。
上記(1)の認定事実によれば,持株会は,自らを民法上の組合と規定する持株会規約を有し,被告ないし野村證券との間で契約を締結し,持株会名義で会員を募集し,役員として理事及び監事を選任し,理事会において意思決定を行い,持株会名義の預金口座を有し,野村證券に財務等を委託しているところ,これらの事実からは,持株会が被告から独立した団体であるようにもうかがわれる。
しかしながら,持株会は,被告の主導の下に組織されたもので,被告内に所在するとされ,固有の電話番号も持たない組織であるなど,その組織の運営上,被告が少なからず関与していることがうかがわれることに加え,その退会手続という会員の身分変動に関わる退会届が被告代表者宛に提出され,しかも,それには被告代表者及び担当部長の決裁が当然に予定されているという書式の体裁をとっており,また,現に退会精算金について持株会ではなく被告から通知されるという退会手続の実態をみても,持株会が被告から独立した別個の団体として運営されているとはいえない。
また,持株会には,会員全員が集まって意思決定をする会員総会がなく,持株会の財務状況について会員に報告される機会もないことからすれば,持株会の運営,財産の管理等の団体としての機能にも疑いが残る。
そうすると,持株会を民法上の組合と規定する規約があること等の前記のような事実があるとはいっても,その実態に照らすと,それは単なる名目上のものにすぎないのであって,持株会は,被告と別個独立の団体ではなく,その一部局にすぎないというべきである(なお,持株会が野村證券との間で締結した契約は,被告の担当部局がその権限の下で締結した契約としてその効力を認めることができるし,持株会と被告との間の覚書及び協定も被告内部の部局間の協定と解される。)。
したがって,株式の精算に係る債務は,被告に帰属すると認めることができる。
3争点(3)(退会精算における株式の評価額)について
(1)前記前提となる事実に加え,後掲各証拠によれば,被告の株式について以下の事実が認められる。
ア原告は,昭和49年以降,持株会の設立に至るまで,被告の株式を1株当たり50円の価格で取得した(前提となる事実)。
原告は,平成6年9月に持株会が設立された時点で,被告の株式を2万6000株取得しており,この時点で株式の取得のために総額130万円を拠出していたが,持株会設立後はその会員となり,平成12年3月に退会するまで,さらに442.337株を1株当たり約550円の価格で取得した。
その結果,原告は,持株会を退会するまでに,被告の株式を2万6442.337株取得するに至り,株式の取得のために総額約154万3285円を拠出したことになる(以上につき,甲4の1,2,甲5,乙10,24,証人A)。
また,原告は,昭和50年から平成11年に至るまで,取得した被告の株式について,毎年ほぼ一貫して10パーセント以上の配当率で算定した利益配当金の支払を継続的に受けており,合計298万1503円の配当金の支払を受けた(乙24,証人A)。
イ平成6年9月の第三者割当増資の際の被告の株価は,1株当たり550円であった(甲9,証人A)。
持株会は,平成6年9月の設立から平成12年1月まで,退会の際に持株会が払い戻す精算金の金額を1株当たり550円としていた(甲7,16,乙9,18,証人A)。
ウ破産者道銀ファイナンスの管財人が,被告の顧問会計士であるC会計士に対し,被告の株価の算定を依頼したところ,C会計士は,純資産方式を用いてこれを1株当たり548円と算定した。
持株会は,上記算定結果等を参照し,平成11年10月に被告を退職したEの持株を,第三者割当増資価格である1株550円で精算した(甲7,16,乙9)。
エC会計士は,被告からの依頼に対しては,被告の類似企業として株式会社Hを選択して類似会社比準方式を用いて被告の株価を検討し,平成12年1月31日付けで,これを1株当たり152円と算定した。
持株会理事会は,同月30日付けで,C会計士による類似会社比準方式を用いた上記算定に基づき,退会の際に持株会が払い戻す精算金の金額を1株当たり152円とすることを決定した(以下「本件理事会決定」という。
以上につき,甲7,8,16,乙9,20,証人A)。
オ原告代理人から依頼を受けて被告の株価を算定したB会計士は,収益還元方式と配当還元方式を0.75対0.25の割合で加重平均した結果,平成12年4月7日付けで,平成10年10月23日における被告の株価を1株当たり572円と算定した(甲9)。
カ破産者道銀ファイナンスに係る破産事件において,札幌地方裁判所は,平成12年7月11日付けで,破産者がその所有する被告の株式を1株当たり43円で有限会社Iに売却することを許可した(乙8)。
(2)持株会規約付則第7条及びこれに基づく本件理事会決定の効力についてア被告は,持株会規約付則第7条に基づく本件理事会決定に原告が拘束される旨主張するが,原告は,本件理事会決定の拘束力を否定する。
そこで,持株会規約付則第7条及びこれに基づく本件理事会決定の効力の有無について判断する。
イまず,退会の際に持株会が払い戻す精算金の金額を株式公開まで持株会理事会に一任する旨の持株会規約付則第7条が有効であるか否かについて判断する。
上記(1)アで認定したとおり,被告の株式は,持株会の設立前において,1株当たり50円という価格で取得することが可能であり,原告もその持株の大半を上記価格で取得したこと,被告は,昭和50年から平成11年に至るまで,株主に対し,毎年ほぼ一貫して10パーセント以上の配当率で算定した利益配当金の支払を継続的に行ってきており,原告も拠出金を上回る配当金の支払を受けていることに加え,非公開の株式には,市場価格がなく,その算定方法については,複数の方法が提唱されていて,一義的に株価を算定することは困難であることを考慮すれば,退会の際に持株会が払い戻す精算金額の決定を,株式公開まで持株会理事会の裁量に委ねることには合理性がないとはいえない。
しかし,上記精算金額の決定について,持株会理事会に全く自由な裁量があると解すると,理事会による恣意的な決定を許し,ひいては会員の利益を著しく損なうことになりかねないが,そのような解釈は持株会の趣旨及び目的に反することが明らかであるので,同条は,上記精算金額決定の基礎となる株価の算定につき,株式公開までの間,合理的な算定方法に基づく合理的な金額と認められる範囲において持株会理事会の裁量を認めたものであって,その限度において有効な規定であると解するのが相当である。
ウ以上を前提に,本件理事会決定の効力について検討する。
持株会理事会は,上記(1)エで認定したとおり,C会計士による算定(甲8)に基づき,本件理事会決定を行っている。
しかしながら,C会計士は,上記算定において,類似会社比準方式を用い,被告の類似会社として株式会社Hを選択しているところ,類似会社比準方式は,評価対象会社と規模や財務状況等において類似する会社が複数存する場合には,合理性のある算定方法といえるが,上記算定において選択された株式会社Hと被告とは,売上高で296億9700万円と48億1500万円,当期純利益で3億1100万円と4500万円,純資産額で103億0300万円と17億1900万円という大きな相違があり,株式会社INAXの特約店順位においても1位と14位という相違があるから(甲8),株式会社Hが被告の類似会社として妥当なものとはにわかに認め難い。
また,1株当たり152円という上記算定も,上記(1)で認定したとおり,1平成6年における第三者割当増資の際の被告の株価が,1株当たり550円であったこと,2持株会は,平成6年9月の設立から平成12年1月まで,退会精算金の金額を1株当たり550円として運用していたこと,3C会計士は,破産者道銀ファイナンスの管財人からの依頼に対しては,純資産方式を用いて検討し,平成11年ころ被告の株価を1株当たり548円と算定したこと,4B会計士は,収益還元方式と配当還元方式を0.75対0.25の割合で加重平均した結果,被告の株価を1株当たり572円と算定していることに照らすと,妥当な算定結果といえるかどうかについても疑問が残る。
そうすると,C会計士の上記算定は,その方法及び金額の合理性に疑いがある。
さらに,本件理事会決定は,1第三者割当増資により1株当たり550円で被告の株式を取得した株主に対し,1株当たり152円での払戻しを強制することになり,その投下資本回収を不当に妨げる結果になること,2持株会の設立以来維持されてきた退会精算金の金額を突如3分の1以下に減らすことになり,持株会会員の既得権を侵害する結果になることを考えれば,本件決定は,合理的な株価算定を基礎とするものとはにわかに認め難い。
以上の検討によれば,本件理事会決定は,合理的な算定方法に基づく合理的な金額を定めたものと認めることはできないから,持株会理事会の裁量の範囲を逸脱しているというほかなく,無効であるというべきである。
(3)原告に支給すべき精算金の金額について
前記のとおり,B会計士は,収益還元方式と配当還元方式を0.75対0.25の割合で加重平均する方法により,平成10年10月23日時点の被告の株価を1株当たり572円と算定しているところ,1上記算定方法は,継続企業の動的価値を計測するのに最も優れている収益還元方式と,少数株式の評価において一般的に採用されている配当還元方式とを併用したもので,平成6年決算期から平成11年決算期までの6年間の財務係数を基礎とするものであること,2その算定結果は,平成6年9月の設立から平成12年1月まで,持株会の退会精算金の基礎として採用されてきた1株当たり550円という株価や,C会計士が純資産方式を用いて算定した1株当たり548円という株価と,ほぼ一致するものであることに鑑みると,B会計士の上記算定方法と算定結果は,上記基準時点においては合理的なものとして是認することができる。
もっとも,上記算定結果は,平成10年10月23日時点の株価に関するもので,平成11年決算期までの財務係数しか基礎とされていないものであるが,平成12年決算期には,前記1(1)エ(ア)のとおり,前期に引き続き営業利益と経常利益とがさらに悪化し,設立以来初めて無配に転じたことに鑑みると,上記算定結果をそのまま,平成12年3月20日に退会した原告の退会精算金の株価算定の基礎とすることはできないといわねばならない。
そこで,B会計士の上記算定方式を用い,平成12年決算期までの過去6年間の財務係数を基礎として,被告の株価を算定すると,1株当たり423円となる(乙9)。
この株価の算定が平成12年3月20日当時の株価と評価するに足りる方法の合理性と金額の合理性を備えており,これを下回る金額を妥当とするに足りる的確な資料もないから,原告の退会精算金の基礎とすべき株価は,上記金額を下回らないものと推認するのが相当である。
なお,被告は,破産者道銀ファイナンス所有に係る被告の株式を有限会社Iに売却する際の評価額が,1株当たり43円にすぎなかったことをもって,本件理事会決定の相当性を主張するが,破産事件の処理の過程における未公開株式の売却価格が,常に必ずしも適正な時価を反映しているとは限らないことに鑑みると,その点は上記認定を左右しない。
そうすると,被告が原告に支払うべき退会精算金の金額は,1118万5108円(423円×2万6442.337株)となり,そのうち401万9235円は既に支払済みであるから,被告は,原告に対し,その残金である716万5873円を支払う義務があるというべきである。
(4)よって,争点(3)(退会精算における株式の評価額)についての原告の主張は,不当利得金716万5873円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
4結論
以上によれば,原告の本訴請求は,1079万7873円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成12年8月19日からの遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

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